Photo by Satsuki Uchiyama
カンパニー(アーム・ソン&ヨハン・オリン)
デザイナー、アーティスト
第6回<前編>
世界各地の偉大なマスターたちと作ったプロダクトは、愛するわが子。お客さんに会って話をして、直接渡したい
今回、フィンランドを訪れて、話をじっくり聞きたいアーティストとして、真っ先に思い浮かんだのがデザインユニットのCOMPANY。彼らの代表作といえば、ロシア、日本、メキシコなど、世界各地の伝統工芸の工房を訪ね、偉大なる職人たちと共にものづくりをする「Secrets」シリーズです。
日本が好きで、日本によく来てくれるけど、じっくりお話を聞く機会がなかったこと、昨年COMPANYのお店「Salakauppa」(サラカウッパ。フィンランド語で、秘密の店という意味)が移転したことなど、聞いてみたいことがいろいろありました。
2024年の春から初夏にかけて、フランスのブランド「エルメス」のパリ・フォーブル・サントノーレ店をはじめ、8店舗のショーウィンドウを手がけ、忙しく駆け回っていたおふたりに時間をいただき、インタビューをしてきました。
――ヘルシンキ中央駅やヘルシンキ現代美術館(キアズマ)のすぐそばにあったかわいらしい小屋のような店「Salakauppa」が移転したと聞いて、ぜひお話をうかがいたいと思っていました。なぜ移転しようと思ったのですか。
ヨハン オフィスの水道管が壊れたときに、一時的なオフィスとしてここを使っていたんです。そうしたらすっかり気に入ってしまって、お店ごと引っ越そうと。中庭が特にお気に入りです。
アーム そうしたら、建築家で友人のリンダが「ここをシアターみたいにしたら?」と提案してくれて。リンダは、学生時代からの友人で、COMPANYの総指揮官でもあります(笑)。
ヨハン そう、私たちは物事を計画的に進めるのが苦手なので、彼女がいつも上手にまとめてくれるんですよ。
アーム 彼女の名前は、リンダ・バリルート。建築家でインテリアデザイナーです。今はパリで暮らしていますが、ヘルシンキのデザインミュージアムでの展覧会「Secret Universe」(2019年)のときなど、私たちが展覧会をするときにはいつも一緒に仕事をしてくれます。
アーム そのリンダが、新しいお店をつくるにあたって、「ベニヤを貼って、COMPANYが世界中を旅するイメージで描いたらどうかな?」と言ったんです。デザインミュージアムでの展示のときも、ベニヤで作った建物を提案してくれたので、そのときと同じように作っていきました。
ヨハン 私たちは世界中を旅して、クラフトマスターたち(COMPANYのふたりは、伝統工芸の職人たちのことを、敬意を表して“マスター”と呼んでいる)に会うのが好きなので、それを表現したらどうかと。
アーム デザインミュージアムの展示から5年経っていますが、いまだに「あなたたちの展覧会はとても素晴らしかったわ」と声をかけてもらうことがあります。それを聞いたリンダは「私たちはデザインミュージアムで始めたプロジェクを続けるべき!」と。実際、近所の人たちがこのお店に来ると、「この空間はとてもピースフルね」と言ってくれます。私たちがやりたかったことはまさにこういうことなんだなと実感しています。
アーム 壁に描かれているのは、マスターたちの工房や家。その前に、彼らと一緒に作ったプロダクトが並んでいます。そうすることで、マスターたちが手がけたこけしやマトリョーシカたちが、自分たちの家にいるようにくつろげるのです。
――だからそれぞれのプロダクト、マトリョーシカやこけしはとても気持ちよさそうにしているのですね。
アーム 見た目にもそうですが、精神的にもぴったりと収まるのだと思います。彼らは強く結びついているのです。
アーム プロダクトというのは、ただ機械のボタンを押してできあがるのではなく、たくさんの人の手によって完成します。ハンドメイドであり、感情があり、そこには日々の努力がある。材料自体は安価な場合もありますが、長い時間をかけて作られます。
アーム こうして壁の前にプロダクトを並べると、リンダは「何かもっと必要ね」と言ったのです。それで、階段を追加しました。ここでいつかパペットショーなどもできたらいいなと思っています。
ヨハン さあ、バックヤードでコーヒーを飲みながらお話ししましょう。
アーム このバックヤードは商品を保管する倉庫であり、未来の企画が眠っている場所でもあります。お客さんが世界中あちこちから来てくれるので、壁に貼っている世界地図には、お客さんがおすすめしてくれた場所やその土地の工芸品などをメモしています。
――改めておふたりは素晴らしい活動をしていますね。
ヨハン ありがとうございます。でも私たちはたった2人だけですし、小さなカンパニーです。
アーム 私たちにとっては仕事というより楽しみです。実際のところ、その小さな楽しみのために、たくさんの労力がかかっているわけですが。
ヨハン でもそれだけの価値があります。ただ、アームはいつも難しい方へ難しい方へと行くんだけど。
アーム そんなことはないよ。私も難しいことは嫌いです。
ヨハン でもあまり簡単すぎることは好きじゃないでしょう?
アーム 難しいことではなくて、ミステリアスなことが好きなんです。知らないことって、頭の中は「?」だらけになりますが、決して難しいことではないと感じるんです。
ヨハン 確かにミステリアスなことというのは、冒険と同じで、何が起きるかわからないというわくわく感があります。
アーム ただ必ずしもハッピーエンドになるというわけではないのですけどね。特別何も起こらない可能性もあります。
――そもそもアーティストとして創作活動をしながら、お店を維持するのは大変だと思うのですが、なぜお店を持ち続けるのですか。
アーム ここは、最初アトリエスペースとして使っていて、時々、私たちの知り合いや、仕事をしたいという人がやってきたのですが、街の中心にあるわけでもないし、彼らはふらっと立ち寄って、おしゃべりをして帰る、シークレットプレイスのような場所になっていったのです。次第に、ここに来る人たちは、なんだか似ているなと思うようになって。といっても、彼らの見た目が似ているということではなくて、例えば、彼らがここに来るととても楽しそうなので、写真を撮りたくなる。自分たちと彼らは繋がっているなと感じるのです。
今回インタビューの依頼をいただいたとき、改めて自分たちのアーティストとしてのキャリアについて考えました。どのようにして人と出会い、共に活動してきたのか、どのように人々とやりとりしてきたのか。
お店を持っていて、一番幸せなことは、人と会えること。お客さんはプロダクトがほしいと言って訪れますが、私たちは皆さんと会えるのが楽しみです。それはまさに奇跡。私たちからここに来てとお願いしているわけでもないのに、彼らはやってきて、私たちは会うことができ、皆さんは気に入ったプロダクトを手にして帰る。それは人との繋がりを考える上で、本当に素晴らしいことです。
学生の頃、私はTシャツやジャケットに、「退屈だ」とか、「一人ぼっち」「孤独」などの言葉をプリントしたアイテムを作っていて、どうしたら人と出会えるのかと考えていたのですが、商品を作り、店を持つことで、世界中からやってくる人々と会うことができるようになりました。
ヨハン ただ人と会えるというだけではなく、私たちの商品がどういう方の手に渡るのか、見届けることができるのも幸せなことです。本来、アート作品を作ったり、プロダクトをデザインしたりするというプロセスにおいて、直接手渡しする必要はないのですが。
ヨハン アームはよいおうちにしか売りたくないんですよ。なので、心の中で「買わないで」と思うこともあるんです。
アーム でもお店に来てくださるお客さんは、本当に素敵な人たちばかり。だからこそ、私たちがデザインし、マスターたちが作ったプロダクトがどのような家に辿り着くのか興味があります。お客さんの中には、彼らが新しい家でどのように過ごしているのか、写真を撮って送ってくれることもあります。私は、買ってくださったおうちの孫の代まで愛してもらえるのか、そこまで気になってしまいます。
ヨハン え、孫の代まで受け継がれるか見届けたいの!? それは初めて聞いた。すごいね!
アーム そう。だから、私はよく人の顔を覚えていて、道でお客さんに再会すると、「以前、お店に来てくれた方ですよね」って声をかけちゃうんです。
ヨハン でも最初の頃は、接客に慣れていなくて、とてもナーバスになっていました。
アーム 正直、体力的にしんどいときもあります。デザイナーとしての仕事をしている間に、誰かがお店にやってくると、つい夢中になって話をしてしまって、あれ、さっきまで何の作業をしていたんだっけ? って忘れてしまうこともあります。
――そうすると、お店を続けるのはやっぱり大変ではあるのですね。
アーム なので、この夏から、お店は土曜日のみ営業することにしました。SNSで土曜日のみ営業しますって言ったら、クレームが来るかなと思ったんですけど、みなさん「いい決断だね!」って言ってくださって。
ヨハン そうそう。「だって、新しいシークレット(プロダクト)を作るのに、時間が必要でしょ?」って。実際、しばらくエルメスのコミッションワークにかかりきりで、僕はペインティングばかりしていました。アームはひとりで店を切り盛りしてくれて。仕事量が多すぎました。お店は週1日のみオープンというのはちょうどいいと思います。
――お客さんからインスピレーションを得ることはありますか。
アーム それはもうたくさん!
ヨハン 本当にたくさんあって、行ってみたい場所や叶えたい夢がたくさんあります。
ヨハン それによって、さらにクレイジーなこともできるんです。どうにかしてこの活動を続け、気づけばお店を持って16年が経ちました。
以前、「Secrets」シリーズの次の旅先を、ペルーにしようか、メキシコにしようかと考えていたことがありました。どちらの国の伝統工芸もかつて学んだことがあって、もっと知りたいなと。
ちょうどその頃、新しいクライアントと出会い、彼らが偶然にもメキシコ出身だったので、先にメキシコの「Secrets」シリーズを始めました。彼らが、まずメキシコに来なさいと背中を押してくれたんですよね。ペルーにもそのあと4年後に行きました。
――新しいことを始める際、タイミングって大事ですよね。
ヨハン 何らかの確信を持つことが大事です。時々、私たち以外の誰かが背中を押してくれます。
アーム それが何かのお告げのように感じることもあります。遥か遠い国からひとりの女性がメッセンジャーとしてやってきて、私たちが店の扉を開き、「さあ、どうぞ入って」というように。
私たちは50年生きてきて、最近は「もうそれほど時間が残っていない!」と感じるようになりました。だから急いでいるのです。学びたい文化はたくさんあるのに、時間は少ないと感じます。
記事は<後編>に続きます。後編では、エルメスのショーウィンドウや、2024年9〜10月にかけて日本で開催された自動販売機ツアー(Vending Machine Tour)など、COMPANYのおふたりの今年の活動についてお聞きしました。