Photo by Satsuki Uchiyama
カンパニー(アーム・ソン&ヨハン・オリン)
デザイナー、アーティスト
第6回<後編>
旅の目的は、魅力的な場所と面白い人たちとの出会い。そして偉大なるマスターの秘密を見つけること
COMPANYの2024年の活動の中で、特に目立っていたのがフランスの老舗ブランド「エルメス」とのコラボレーション。パリのフォーブル・サントノーレ店の100周年を祝うプロジェクトとして、8店舗のショーウインドウを手がけました。そしてもう1つは、日本で展開した自動販売機ツアー(Vending Machine Tour)。それらの活動についてと、公私共にパートナーとして活動するおふたりに、それぞれの役割分担、仕事の進め方などについてもお聞きしました。
――今年の印象的な仕事として、エルメスの仕事、パリのフォーブル・サントノーレ店の100周年を記念したプロジェクトについてもお聞きしたいです。この夏、エルメスのショーウインドウ*をCOMPANYの世界が彩りましたが、どのようにしてこの仕事の機会を得たのですか。
*実際のエルメスのショーウインドウの様子は、COMPANYのInstagramをご覧ください。
アーム ある日、突然、エルメスからメールが届いたのです。
ヨハン おそらくエルメスのスタッフのひとりが、私たちのデザインミュージアムの展覧会に来てくれたのではないかと。そうでなければ、フランス国内にだって、アーティストはたくさんいるでしょうから。
アーム 彼らは私たちをフォーブル・サントノール店に招待してくれて、建物の中にある工房やミュージアム、シアターを案内してくれました。庭がとても素敵で。店員さんたちも素晴らしくて、情熱を持って働いていて、まるで舞台に立つオペラ歌手のようでした。
建物のあちこちに、不思議なオブジェがあって「これはなんですか?」と聞くと、美術館のディレクターがすべて丁寧に説明してくれます。1つのブランドがさまざまな方法や視点で、文化を築き上げているというのがわかり、本当に驚きました。
――工房というとCOMPANYの活動にも通じますね。共感することも多かったのではないでしょうか。
ヨハン はい。そこには素晴らしい腕を持つ職人がいました。彼らはいい意味でクレイジー。普通は分業で作るものですが、彼らは1つのアイテムを最初から最後までひとりで作っているんですよ。
――パリだけでなく、ブリュッセルやコペンハーゲンなど、他の国の店舗も手掛けていましたよね。
ヨハン パリの他に、アムステルダム、ブリュッセル、コペンハーゲン、クノック(ベルギー)、ルクセンブルク、オスロ、ストックホルム、そしてアームの生まれ故郷、韓国のソウル。全部で8店舗です。実際には、ソウルが先で2024年の冬、その後、春からヨーロッパで開催しました。
――どのようにしてコンセプトやデザインを決めていったのでしょうか。
アーム 実はソウルだけ、窓が大きく、数も多かったので、より多くのストーリーを加える必要があり、他の店舗と構成が異なりました。
ヨハン ソウルでは、シンプルに私たちがフォーブル・サントノーレを訪れたときの興奮を表現しました。その建物の中で何が起こっているのか。ブランドやお店がどのように構成されていて、職人たちがどのように働いているのかを表現しました。覗き込むと、そこで何が起きているのか、ディテールを見ることができます。
その反対に、ヨーロッパのショーウインドウはズームアウトして、フォーブル・サントノーレのビルを作り、そこにキャラクターを添えて、さまざまなヨーロッパの街を旅するツアーのような構成になっています。小さなメキシコの人形も加えて、ビルの中と外で何が起きているのかを表現しました。
アーム お客さんの反応を見ることはできませんでしたが、お店のマネージャーさんや店員さんからコメントをもらって、高く評価してもらえました。子ども時代の記憶が蘇ったと言って、手紙をくださる方もいて、感激しました。
――今年の後半はどのような活動を予定していますか(取材時は6月)。
アーム 9月に自動販売機のプロジェクトを予定しています。
――自動販売機ですか!? 面白そうですね! それはどこで開催ですか。
ヨハン (こそっと小声で)日本ですよ!
アーム でもまだほとんど何も決まっていないのです。なのでどうなるやら……。コミッションワークではなく、私たちのオリジナル企画で、ただただ自分たちがやりたいと思っているもの。Artek Tokyoに提案していて、その後、大阪と福岡に巡回予定です。
日本の皆さんにとって、自販機は当たり前にあるものなので、そんなものは自販機ではないとか、間違っていると思われるかもしれません。でもそもそも自販機が身近なので、自分たちが知っているものと違ってなんか変だけど、面白いね、と感じてくれるんじゃないかと思ったんです。
アーム もう1つ自販機ツアーをやりたいと思った理由があって、香川に行った時に、面白い出会いがあったんです。人が並んでいたので「何の列ですか?」と聞いてみたら、シアターだと。確か入場料は2000円くらいでした。中に入ってみると、突然、男の人が出てきて、彼は音楽が流れる中、踊ったり、演じたり。伝統演劇でした。
彼は観客席に降りてきて、会場を歩き回ります。そしてお客さんは彼の服にお金を入れるんです。1万円とか結構な金額ですよ。そして、彼らはものすごく変なものを売っていました。それがまたユニークで面白くて。そんなふうに、私たちもちょっとおかしなショーをしたいなと思ったんです。
ただ私たちはシャイなので、自販機の後ろでちょっと演じるくらいがちょうどいい。それが自販機ツアーのアイディアの源です。
――自販機では何を販売するのですか?
アーム 今、北九州のマスターたちと大急ぎで作っているところです。私たちは自販機のデザインを考える必要があるだけでなく、自販機に並べる商品もデザインしなければならないので、急がなければいけません。
最近気づいたのは、作ることがマンネリになってきていて、税金のことなど、煩雑な事務処理で忙しくなっているのではないかということ。今回の自販機ツアーのように、心から楽しいプロジェクトに取り組んでいるときが本当に幸せです。
――いつもどのようにしてマスターたちとコンタクトをとっているのですか? 例えば、日本での活動は間に仲介してくれる人、サポートしてくれる友人などはいるのでしょうか。
アーム 日本人の友人はいますが、マスターたちとは直接話すようにしています。なぜなら、私たちの質問はとても簡単なので。Google翻訳はとっても優秀なアシスタントですよ。
ヨハン でも1つの翻訳ソフトには頼らず、必ずダブルチェックするようにはしています。
――そうすると、まずは旅をして実際に会うことを試みて、話をする。そのあと実際に作っていく作業は、メールを使ってコンタクトを取るというプロセスなのですね。
アーム&ヨハン そうです、そうです。
アーム どこの国でも同じです。私たちは、まず旅をする。とにかくまず行くのです。すると、マスターたちはどのように作っているのかを見せてくれます。そして私たちは友人になり、一緒に何かできないかと模索します。
エルメスのソウル店を訪ねた際、3日だけ休みがあったので、福岡の友人に会いに行きました。彼らは、「うなぎの寝床」と言って、現代風の久留米絣のもんぺなど、オリジナルアイテムを作りながら、地域文化をつなげる役割をしている人たち。地元のマスターたちと知り合いなので、「一緒にマスターに会いに行こう!」と誘ってくれて、訪れました。
ヨハン 2日半で6つの工房を訪ねたんですよ。コロナ禍ではなかなか動けなかったのですが、ようやく訪れることができました。その後、昨年(2023年)の12月から一緒にプロダクトを作っています。
アーム マスターたちも私たちに興味を持ってくれて、そのあと、メールでコンタクトをとりながら、作っています。自販機ツアーも北九州に行きますよ。
――そもそもおふたりには仕事の分担というものはあるのでしょうか。先ほど、エルメスの仕事で、ヨハンさんがペイントをしていたというお話がありましたが(前編に掲載)。
ヨハン エルメスやSalakauppaのペイントは私が担当しました。コンセプトは一緒に考えて、ペイントをする必要があるとわかり、最初はふたりで作業を始めたのですが、あるときアームが「ヨハンがペインティングを終わらせて」と。アームは私が塗っているのを見ながら、「ここを塗って。もっとここを」と指示していました。
――ということは、ペイントの仕事があるときは、ヨハンさんが担当することが多いのでしょうか。
ヨハン 気づいたらそうなっているんです(笑)。私はそれを変えたいと思っているんですけど。
アーム あはは。私もペイントすることはあるのですが、私のやり方には、終わりがないんです。常に変えたくなってしまう。アイディアもどんどん変わっていきます。
ヨハン 私は塗るのが速いですし、ここはこれで終わりにして、次は別のことをしたいというふうに、すっと気持ちを切り替えられるんです。
アーム 私は塗りながら考えてしまって……。コンセプトはなんだったのか、どうして私たちはこうしたいと思ったのか……など。
ヨハン それに比べ、私はもっとシンプルな考え方。次から次へとミッションをこなす兵隊のよう(笑)。塗り終わったら、次のプランやスケジュールを確認して、さっと移ります。
――コンセプトは一緒に考えて、その後、デザインはどのように進めるのですか。
ヨハン 企画やプロダクトにもよりますが、通常は、全体を同時に進めて、一緒に終えます。この秋の自販機ツアーは、アームが初めて私にデザインの提案をしました。そこに私がアイディアを加えて、アームに戻して……というふうに進めました。来週、いよいよ大工さんに会います。さらにもうひとりの大工さんに会ったら、この企画がどのような形になるか見えてくるというわけです。
アーム 時々、もうこれ以上進められないということもあります。1つの企画に関して、私は10のドローイングをして、それを元に10の模型を作りたいと思うのですが……。
ヨハン 僕は1つの企画に対して、1つの模型を作るやり方が好きですね。
アーム そう、ヨハンはデザインができたら、すぐに作りたいと思うタイプ。でも私は模型を作って確認したいんですよね。
ヨハン 僕は元々、グラフィックデザイナーでしたし、アームは工業デザイナーだったので、私たちはバックグラウンドが違うんです。それでアプローチが異なるのだと思います。
――おふたりは喧嘩をすることはありますか。いつも仲良さそうに見えますが。
アーム&ヨハン もちろん。しょっちゅうですよ(笑)。
ヨハン 夫婦というのはそういうものですよね。
――クリエイターカップルというのは、公私共に一緒なので難しいという人もいますが、おふたりはどうですか?
アーム 私たちにとってお店を持つということは、単なる仕事でもなければ、エンターテイメントショーでもなく、リアルな生活なんです。もし私たちが夫婦ではなく、仕事と夢をシェアできないとしたら、Salakauppaのアイディアも生まれなかったでしょう。
それに何カ月もの間、ビジネスパートナーと知らない国を旅するのは、難しいでしょうね。私たちにとって、世界各地のマスターに会いに行くことは、仕事ではないんです。「Secrets」シリーズでは、私たち2人が旅の中で見つけ、共有してきたことを皆さんにお見せしているのです。
ヨハン そう、クラフトマスターへの愛を皆さんにお見せしているんですよ。
――(自動販売機ツアーを終えての追加のインタビュー)夏にお話をお聞きした、自動販売機ツアーがついに終わりました。私たちもArtek Tokyoを訪れ、おふたりが語っていたアイディアが形になったのを見ることができました。COMPANYは、手がけるプロダクトへの愛が深いだけでなく、それらを魅せる力、シアターパフォーマンスも素晴らしいですね。ツアーを終えた感想をお聞かせください。
ヨハン くたくたになりました。まるで、自動販売機の中を跳ね返りながら駆け巡るポカリスエットの缶になったみたいな気分です(笑)。
ーーどの瞬間が一番楽しかったですか。
アーム 自販機の裏で、お客様に「いらっしゃいませ!」って大きな声で言うときですね!
ヨハン 私はお客さんが商品を買う際、自販機でパフォーマンスをするのがとても楽しかったです。特に、自販機の受け取り口から商品を手渡しする瞬間は、お客さんが一番驚いてくれるので、それを見るのが毎回楽しかったです。
(取材を終えて)今回も驚くほどユニークなアイディアとパフォーマンス、素敵なプロダクトで、日本のファンを喜ばせてくれたCOMPANY。自動販売機ツアーはこれで終わりではなく、世界を巡りたいと語っていました。そして彼らのアトリエには未来の企画、シークレットがたくさん眠っています。今後も彼らの活動から目が離せません。そして、週に一度はSalakauppaで、世界中からやってくるお客さんを笑顔で迎えてくれます。ただし、ふたりは国内外を旅をしていることも多いので、訪れる前に、SNSで営業日をご確認ください。
COMPANY
カンパニー/フィンランド人のJohan Olin(ヨハン・オリン)と、韓国人のAamu Song(アーム・ソン)からなるアート&デザインユニット。ふたりはヘルシンキ美術大学(のちのアアルト大学)で出会い、2000年にCOMPANYを結成。2006年に、タイ・バンコクのグループ展で、現代美術家の奈良美智と出会う。それが「Secrets of Northern Japan」シリーズ(こけしマスターとのコラボレーション)へと繋がっていく。2007年より世界各地の伝統工芸の職人たちとコラボレーションするプロジェクト「Secrets」シリーズがスタート。また、2008年よりそれらのプロダクトを自分たちの手で販売する店「Salakauppa」を運営している。ミラノ・サローネやロンドン・デザインフェスティバルなど大規模な国際展に参加するほか、2019年にフィンランドのデザインミュージアムで開催された「Secret Univers」展や、2015年に青森県立美術館の「ニッポン・北のヒミツ」展をはじめ、世界各地の美術館やギャラリー、ショップなどで、ユニークな展覧会を開催している。2010年、フィンランド国家デザイン賞受賞。
アーティスト COMPANY https://www.com-pa-ny.com/
お店 Salakauppa https://salakauppa.fi/
2024年6月15日 フィンランド・ヘルシンキのSalakauppaにて
企画・取材/kukkameri
執筆/新谷麻佐子(kukkameri)
協力/スカンジナビア・ニッポン ササカワ財団