カルデミンミット
フォークミュージック・グループ
第9回<後編>
共に育った仲間と奏でる音楽
2020年に結成20周年を迎えたカルデミンミット。音楽学校でカンテレを習っていた少女たちの運命的な出会いとは? また、三度の来日ツアーを果たしている彼女たちが、日本で特に気に入っているものとは? バンドの歴史と最近の活動についてもお聞きしました。最後にはビッグニュースも!
――カルデミンミットの歴史についてお伺いしたいと思います。カルデミンミットは、みなさんがまだ少女の頃に結成されたのですよね。
A グループが結成されたのは、2000年です。私たちは同じエスポーの音楽学校のカンテレの先生に師事していて、私とレーニ(双子の姉妹)は当時10歳、もうすぐ11歳になろうとしていました。マイヤは1歳下で10歳、ユッタは2歳下で9歳。音楽学校のフォークミュージックのプログラムの中で、4人でバンドを作ることになったんです。私たちは、それぞれ2つずつバンドの名前の候補を考えて、計8つの名前を提案しました。今はもう他の名前は覚えてないですけどね。「カルデミンミット(スパイス・ガールズの意味)」はユッタの提案で、音楽学校の生徒と先生全員でどれがいいか投票して、これに決まったんです。採用されたユッタはキャンディをもらったんですが、後からカルデミンミットというのは、ユッタのお父さんが考えた名前だったことがわかりました(笑)。
ときどき「あなたたち、もう大人になったんだからバント名を変えたら?」って言われることもあるのですが、変えるつもりはありません。英語だとちょっと発音しにくいみたいなんですけど、少しくらいこういう言葉の遊びがあってもいいかなって思うんです。

M 音楽学校の先生たちは、私たちに自立した自由な活動をさせてくれたんです。私たちはエスポーで行われた、大小さまざまな音楽イベントに出演したんですよ。
A 私たちの一枚目のアルバム「Viira」は、そうした小さな活動で得た出演料を貯めて作ったものです。
M ただバンドとして活動するだけではなく、自由な時間も一緒に過ごして、音楽を聴いたり、映画を観に行ったりして、大きくなってきたんです。週末にはお泊り会なんかもしてね。
A 父が私たちの20周年記念アルバムを作ってくれたんですよ。私、今と同じような服を着てる(笑)、これは10代の頃です。
M この新聞の見出し、「少女たちのカンテレはロックも弾ける」って書いてあるのよね。実際は私たち、ロックを弾いてたわけじゃないんだけど(笑)。

A ホームビデオもたくさんあるんですよ。20年間のとてもいい思い出。
――すごく素敵な関係で羨ましくなっちゃいますね。
メンバーは友だちであり、家族であり、音楽の仲間でもあります。
――マイヤ・ポケラ
なんて表現したらいいのかわからないくらい、特別な存在。

――アンナさんとレーニさんは双子ですが、音楽性について共通点や違いを感じることはありますか?
A そうですね、私たちは確かに双子ですけど、4人でずっと活動してきたから、私とレーニとの共通点や違いと、マイヤ、ユッタとの共通点や違いとは、そんなに変わらないような気がします。同じ先生について、同じ音楽を聴いて、同じ図書館で同じ本を借りて。誰のソロかは歌声を聴いたらわかるけど、私たち、本当に一緒に育ってきたという感じなんです。
――ここで、お二人の好きな曲をそれぞれお聞きしたいと思います。自分たちの曲の中で、どれがお好きですか?
M 今は「トゥオミの花」かな。
A 最新アルバムから選ぶのなら、私は「魔女の誕生」かな。演奏するときいつも楽しいから。
M 私も「魔女の誕生」好きよ。
A でも、どれが一番かわいい子どもかなんて、選べないですよね?(笑)
M それぞれに違った良さがあるから、メロディや詩や感情や……。
A アルバム全体を聴いたときに心地よい流れになるよう作っているので、すべての曲に居場所があるんですよ。
――日本について少しお聞きしたいと思います。日本の伝統音楽はご存知ですか? お好きですか?
A 日本の伝統音楽についてはそれほどよく知らないのです。いくつかの伝統曲は、留学生と交流して知りましたが。でも、日本の文化と食べものは大好きですよ。
M 自然もね。
A・M それから、お風呂、温泉……!!


A 日本はとても特別な場所です。日本のエージェントのハーモニー・フィールズさんがよくしてくださるので、毎回楽しくツアーしているんですよ。
前回は新幹線に乗りました。とても忙しいスケジュールだったけど、日本各地を回れて嬉しかったです。私は日本でツアーを行う北欧のバンドが、「ナショナル・アイデンティティとバンド・ブランディングをどう展開するか」というテーマで修士論文を書きました。
2001年、12歳くらいのときに「千と千尋の神隠し」を観たのが、日本文化に触れた最初ですね。とても感動して、たぶん200回くらいは観ていると思います。それ以外にも日本の文化には親しんでいますよ。例えば、「名探偵コナン」とかね。
M アンナは日本語も話せるよね。
A 勉強して、少し話せます。
――アンナさんはジブリ映画がお好きなのですよね。
A ジブリの映画は全部大好き。雰囲気や世界観。私たちの音楽とジブリ映画の共通点は、細かいプロットにはそれほど重きを置いていないことだと思います。それよりも世界観や感情、ファンタジーの世界が大切にされているというところ。
M 子どもの世界を大事にしているところも好きだって言ってたよね。
A そう! 例えば「となりのトトロ」の中で、サツキとメイが叫んだり、エネルギーに満ちあふれて走り回ったりしているのを、誰も「静かにしなさい!」って言って叱ったりしないところに感動しました。子どもや女の子たちが主体性を持って活動しているところが好きです。
カンテレには、“独自の音色”があると思います。
――アンナ・ヴェゲリウス
余韻の長さ、響きとか。
――日本の琴についてはどうですか? カンテレに少し似ている部分があるかと思うのですが。
A 弾いたことありますよ。確かにカンテレと琴は似ていて、フィンランドのカンテレ奏者エヴァ・アルクラは、日本の琴奏者とデュオを組んでいたりもしています。
M 私はシベリウス音楽院でワークショップがあって、そのときにちょっと弾いてみたことがあります。とても面白かった。
A カンテレ職人のラウノ・ニエミネンは、カンテレという楽器とその歴史について、木の箱に弦を張ったというだけのものだ、と言っています。どの文化にも木に弦を張った楽器があり、楽器の基本的な形で特別なものではないと。実は、カンテレはフィンランドの国の楽器なので、ナショナリズムと結びつけて称揚したい人もいるんです。でも、ニエミネンはカンテレをバルト海沿岸地域に伝わるツィター属の楽器のひとつとみなしていて、エストニアのカンネル、ラトビアのクアクレ、リトアニアのカンクレスなどと同列にとらえています。普遍的な楽器なんですよね。
私自身は、カンテレに“独自の音色”はあると思います。余韻の長さ、響きとかね。
M 私たちにとって、カンテレは演奏するための楽器という以上のものではないけど、フィンランドの伝統楽器をプロとして弾いて歌うカルデミンミットというグループは、とてもユニークな存在だと思っています。
A 伝承の中でもカンテレは魔法の力を持った楽器です。でも私が思うに、楽器自体が魔法の力を持っているのではなくて、カンテレが奏でる音楽に力があるのだと思う。現存する最古のカンテレは1600年代に作られたもので、そんなに古いものではないのですけど、カンテレ自体にはおよそ2000年の歴史があります。カンテレ自体に魔力があるというよりも、カンテレから生まれる歌、奏でられる音楽に不思議な力があるんじゃないかなと思います。
――ところで、アンナさんは、2022年にトーベ・ヤンソンが夏の間暮らしていた島、クルーヴハルに一週間滞在されたそうですね。
A はい、たくさん写真があるんです! 一冊のアルバムにしたの。6月の季節で、たくさん鳥がいました。花と虫と鳥と、海と……。私の人生で一番の一週間でした。誰も上陸してこなかったんです。7月だと自家用の船でクルージングしている人がいっぱいるので、一日に80人近く上陸してくることもあるみたいなんです。でも、私がいたときは、すごく静かでした。誰も来なかったの。また行きたいくらいですが、希望者が多いから難しいでしょうね。
M ほんとにたくさん写真を撮ったのね。
A いつも光が移り変わっているから、同じ窓から200枚も写真を撮ったのよ。トーベも泳いだ島の溜まり水で、私も泳いだの。

――なぜクルーヴハルに滞在しようと思ったのですか?
A コロナのパンデミックの間、何も仕事がなくなってしまったとき、今なら行ける、行くべきだと思ったんです。それまでとても忙しく過ごしてきたから、私には孤島で何もしない時間が必要でした。島では何も仕事をしないと決めて、きっとそこで何かインスピレーションを得ることができるんじゃないかと思ったんです。
私は『少女ソフィアの夏』が大好きで、毎年読んでいました。クルーヴハルについての本ではないけど、クルーヴハルを感じられる本です。島にも持っていきましたよ。もちろんムーミンも読みますが、大人向けの小説もとても大切なんです。
トーベは強い女性でした。フィンランドでは当時、レズビアンのカップルがともに生きていることを公にするのはとても珍しかったのですが、彼女たちは自分たちの関係を隠したりはしなかったのです。フィンランドで、同性愛の関係をオープンにした初めてのカップルだと思います。フィンランドの独立記念日には、著名人を大統領邸に招待する晩餐会があるのですが、トーベとトゥーリッキは、一緒に参加しています。二人は自分たちが他人からどう見えるのかよりも、自分らしくいるということを大切にする人たちだったんですね。

私は、そんな二人が島でどういう生活をしていたのかを体験してみたかったんです。そして、なぜ夏を島で過ごしたのかも知りたかった。そして、心の底から理解できました。そこには、どう生きるかというとても重要な哲学が含まれているのです。島は、自分らしく生きるための場所。私にとっても生きる意味を知った聖地のような場所になりました。まさに魔法の場所だと思います。
――私たちkukkameriも2014年にクルーヴハルに滞在したので、アンナさんのおっしゃっていることがとてもよくわかります。滞在から何か作品は生まれそうですか?
A 今のところはまだですが、きっと後から生まれるかもしれませんね。
――最近の活動のお話も聞かせてください。2024年4月にフィンランドのミュージシャン「ピュカリ(Pykäri)」とコラボレーションしたアルバム「U.F.O.」が発売されましたね。
A はい、誰かが私たちを推薦してくれて、プロデューサーも務めているミッコ・ピュカリがインスタグラムから連絡をくれて(笑)。それで、私たちは彼の新しいアルバムのバックコーラスを担当することになりました。
M 打ち合わせで会ったらすぐ、まるでいとこ同士みたいな感じで打ち解けました。ミッコとバンドも組んでいる作曲家のカーリン・マキランタがコーラスを美しくアレンジしてくれて、ダイナミックなコラボレーションができました。「1970年代のパンク」が、このアルバムのコンセプトだったんですが、私たちはフォークミュージックをやって、そこでどんな化学反応が起こるのかという試みです。まさに「U.F.O.」というタイトルに象徴されていますね。

A 彼の狙いは、このミックスは一体何なんだ? と思わせること。コンフュージング・ミュージックだと言っていましたね。彼は以前、日本のシティポップも作っていて幅広いジャンルを手がけています。まったく新しいサウンドで面白かった。
M 最初は1、2曲コラボする予定だったのですが、あっという間に10曲になりました。
――フォークミュージックと他の音楽のジャンルとのコラボも面白いですね。これからはどんなジャンルに挑戦してみたいですか?
A 特にこれがやりたいというジャンルがあるわけではないですが、これからどんな展開があるのかはいつも楽しみにしています。
M 私はいつか、オーケストラと共演してみたいな。オーケストレーションも。
A マイヤは弦楽奏のアレンジをしたことがあるのよ。そうそう、アメリカの合唱団とは2022年にコラボしたことがあります。2025年、彼らがフィンランドに来る予定があるので、きっと2、3曲共演できるのではないでしょうか。若い人たちのと共演は、互いにインスピレーションを受けられますよね。
――カルデミンミットの新しいアルバムの予定はありますか?
A・M たぶん、あります(笑)。まだ詳しくは話せないんですけど、どうぞ楽しみにしていてください!

Kardemimmit
カルデミンミット/2006年、ファーストアルバムの「Viira」をリリース、続いて2009年発表のセカンドアルバム「Kaisla」が国内外で高い評価を受け、以降海外フェスへも数多く招聘されるようになる。「Kaisla」は2012年にリリースされた「The Rough Guide to the Music of Scandinavia」という北欧トラッドを紹介するコンピレーションアルバムに、ボーナスCDとして「Introducing Kardemimmit」というタイトルで収録された。第3作の「Autio huvila」は前作を凌ぐ出来栄えとなり、2012年のフォーク・ミュージック・アルバム・オブ・イヤーにも選ばれた。2013年からはより国際的に活動し、ヨーロッパや北米、日本で公演を行っている。日本にも3度来日し、無印良品の<Muji 24 Finland>に参加するなど、活躍の幅を広げている。
Kardemimmit 公式サイト https://www.kardemimmit.fi/discography/
ハーモニーフィールズ・カルデミンミット日本語公式サイト https://www.harmony-fields.com/kardemimmit
2024年6月15日 フィンランド・エスポーにて
企画・取材/kukkameri
執筆/内山さつき(kukkameri)
協力/スカンジナビア・ニッポン ササカワ財団
通訳/ロミマキコ
Special thanks /こうのちえ
カルデミンミット、2026年2月来日決定!! 東京 / 神奈川 / 千葉 他
詳しくはハーモニーフィールズ公式サイトにて