Photo by Satsuki Uchiyama
ロッタ・マイヤ
テキスタイルデザイナー、イラストレーター
第8回<再会編>
After the interview
マリメッコのインハウスデザイナーになったLotta Maijaを訪ねて
今回は少しイレギュラーなインタビュー。2024年1月に東京でお会いしたテキスタイルデザイナーのLotta Maijaさん(以降、ロッタ)が、東京での留学生活を終え、ヘルシンキに戻ったのは昨年2月のこと。その後、マリメッコのインハウスデザイナーとして働くことになったと連絡があり、昨夏、フィンランドを訪れた際、ロッタに会いに行ってきました。
約束の時間にヘルシンキのマリメッコ本社を訪れると、広報のLauri Sallantausさん(以降、ラウリ)と一緒に迎えてくれました。
この日は6月20日。夏至祭直前ということで、多くの人が夏休みに入ってしまい、社内は人がまばら。「いつもはここに人が溜まっていて、にぎやかなんだけど……」と、普段の雰囲気も教えてもらいながら、中へと進みます。本社には、プリント工場が隣接していて、まずは工場内を案内してもらいました。
1冊目の著著『とっておきのフィンランド』(kukkameri/著 地球の歩き方)の取材でも一度、マリメッコの工場を訪れていたので、今回で二度目。大好きなウニッコ(けしの花)柄はもちろん、まもなく店頭に並ぶであろう、新しいデザインが刷られている様は、何度見ても美しく圧巻です。また、マリメッコのデザイナーに直接案内してもらえるなんて、特別な経験となりました。
ラウリ この場所にプリント工場が建てられたのは1973年。その後本社が建設されました。それまではハンドプリントだったんですよ。ここに来てから機械で刷るようになったのです。
ここには2つのタイプのプリンティングマシーンがあり、1つはフラットベッド(スクリーンプリント)タイプ、もう1つが回転式のマシーンです。ここでは毎年100万メートルの布が印刷されています。

男性2人の間にあるのがローラー型の版で、クルクルと回りながら布に転写していく。
――ロッタがここで直接色のチェックをすることはありますか。
ロッタ 工場の中で確認することはないのですが、ここでテストプリントされたものを社内でチェックしています。どのアイテムもプロダクトになる前に必ずここでテストプリントされているんですよ。1つの絵柄で、最小で1つ、最大12のスクリーン(版)が必要になります。

ロッタ ウニッコには、花のサイズやデザインが異なる版がたくさんあり、私たちでも数え切れないほどの版がストックされています。




その後、花の大きさや色を変え、プリントされてきた。マリメッコを代表する絵柄。

カクソセットとは「双子」の意味で、双子の猫が描かれている。
今回初めて入ることができた部屋もありました。そこは「TILKKULA」と呼ばれ、デザイナーたちがインスピレーションを得るときに必ず立ち寄るのだそう。TILKKULAはフィンランド語で「生地スワッチ図書館」という意味。生地の色や素材感を確認するための見本がそろった場所です。

自身がデザインした「Herbaario ヘルバーリオ」のブラウス。2023年のコレクション。
ラウリ この部屋にはマリメッコのカラーコレクションがそろっていて、デザインチームは、新しいコレクションや図案、色のデザインを考える際、ここに来てインスピレーションを得ます。ブルー1つとっても、何百と色があり、もし求めているブルーがアーカイブから見つからなければ、工場のカラーキッチンで調合し、新しいブルーを作ります。

ラウリ マリメッコには、3500を超えるプリントデザインがあるんです。例えば、ヴオッコ・エスコリン=ヌルメスニエミがデザインした、ストライプ柄のPiccolo(ピッコロ)は、1953年に誕生していて、ピッコロの布を使った「ヨカポイカシャツ」(ユニセックスのシャツ)は、1956年から作られています。おもしろいのは、同じデザインでも色の組み合わせが変われば、絵柄の見え方が変わること。それぞれの色がどのように反応し合うか。また2色が重なることで第3の色が現れるのです。



ロッタ デザイナーたちは、ここにあるカラーチャートも使いますし、コンピューター上でも色の作業を行います。コレクションが終わると、色のプロセスが始まり、ここに来てリアルな色を探します。もしイメージに合う色がなければ、新しい色を作ります。例えば、このブルーを20%加えて、ちょっと黄色を足し、少しだけダークに、というように。それからテストプリントをして確認します。
ラウリ マリメッコといえば、プリントの図案とアート性が最も有名ですが、実はあまり知られていないながらも、私たちにとってとても大切な遺産だと言えるのは、誰も思いつかないような色の組み合わせのデザインをたくさん生み出してきたこと。それらは大切な遺産として、マリメッコのデザイナーたちに確実に受け継がれています。
ここにはたくさんの色のパターンがあるので、いつでもアーカイブに戻ることができ、1960年代から使用してきた色を確認できます。2024年はウニッコ60周年のアニバーサリーイヤーだったので、春夏コレクションではキャンバスバッグにフィーチャーし、1964年のオリジナルウニッコカラーを採用しました。

「現在は違うシステムを使っているのですが、元々、ウニッコには製造順に番号がふられています。
そのバッグのカラーはNo.2。つまり2番目にプリントされた配色で、とてもレアな色ですよ」とロッタ。
「ほら!」と言ってファイルからNo.2の色を見せてくれた。
――ロッタは現在はどのような仕事をしているのですか?
ロッタ これまで、「Apilainen(アピライネン)」や「Tuulahdus(トゥーラフドゥス)」など、主に花柄のデザインをマリメッコに提供をしてきましたが、現在はオリジナルデザインを生み出すデザイナーとしてではなく、インハウスデザイナーとして働いていて、マリメッコのコレクションを手がけています。
デザインチームの一員として、マリメッコのアイテムをデザインします。その中でも私の分野はファブリック。そしてそれらのファブリックを使ったホームプロダクトです。
同じホームプロダクトチームには、セラミックを担当するデザイナーがいたり、織物を担当する者がいたりと、それぞれの専門分野がありますが、配色や構図といったデザイン的なことから販売計画まで、すべてのホームコレクションを共に手がけています。

ラウリ 私たちには貴重なアーカイブがあり、なおかつ新しいパターンもあって、次世代のプリントデザイナーがいる。それらの才能と財産をコレクションに還元して、こうして毎年、新しいプリントが生まれるのです。

ラウリ それゆえ、マリメッコのプリントが、いつの時代のものか見極めるのは難しい。時代を超えた価値があり、それが60年代から来たのか、70年代なのか、はたまた2000年代のものなのか。同じエッセンスをシェアしているので、デザイナーでさえ、見極めるのが難しく、時には想像するしかないこともあります。
ロッタ 異なる時代の、異なるデザイナーたちのアイディアが合わさり、新たなデザインが生まれるというのは、とてもエキサイティングなこと。そこにデザイナーとして携われるのは、貴重な経験ですし、とても幸せなことだと感じています。

スタッフが交流したり、仕事の合間にリフレッシュしたりできる開放的な空間が広がる。

デザイナーのセンスや可能性を見抜く力を感じさせる。
こうしてマリメッコツアーは終了。取材後は、観光客にも大人気の社員食堂「Maritori」でランチを食べながら、ロッタとお互いの近況を報告し合いました。
以前にインタビューをしたロッタ・マイヤのその後の活動を追いかけることは、ロッタのデザインのファンであり、フィンランドやデザインを愛する者としてとてもうれしい機会でした。また、表現者としても学ぶこと、得るものもたくさんあり、こうして日本の皆さんにアーティストの最新の活動を届けるのも重要な役割だと感じています。今後もこのような機会が見つけ、続けていきたいです。
Kiitos, Lotta and Lauri!
Lotta Maija
ロッタ・マイヤ/1993年フィンランド・ヘルシンキ生まれ。子ども時代はヴァンターで過ごした。現在はヘルシンキ在住。海が身近なヘルシンキの暮らしを気に入っている。アアルト大学にてテキスタイルデザイン専攻。在学中の2017年4月より半年間、日本のデザイン会社でインターンシップを経験。大学卒業後まもなくマリメッコへデザイン提供。イギリスの子ども服ブランド「Petit Pli」、アメリカの絆創膏メーカー「Welly」、カナダのステーショナリーブランド「Baltic Club」など、国内外の企業とコラボレーションし、活躍している。2023年9月より5ヶ月間、多摩美術大学に交換留学で再来日。2024年2月にヘルシンキに帰国。現在、アアルト大学の修士課程を休学し、2024年3月よりマリメッコのインハウスデザイナーとして活躍している。
Lotta Maija https://lottamaija.com/
2024年6月20日 フィンランド・マリメッコ本社にて
企画・取材/kukkameri
執筆/新谷麻佐子(kukkameri)
撮影/内山さつき(kukkameri)
協力/スカンジナビア・ニッポン ササカワ財団