Photo by Markku Pitkänen
ピヴェ・トイヴォネン
画家、イラストレーター
第10回<後編>
私の本は”ドキュメンタリー”。見た景色や経験を描き続けたら、本ができました。
ピヴェさんはサウナが大好きで、フィンランド国内のサウナをあちこち巡っては、サウナの絵を描き続けています。2024年に来日した際は、日本の温泉や銭湯、そしてサウナも体験したそう。大好きなサウナのこと、そしてそれらを描く意味など、お話をうかがいました。

――私たちがピヴェさんに初めて会ったのは、サウナの作品がたくさん並んだ、東京の個展会場でした。そして、会期中に開催された、サウナで絵を描くワークショップにも参加。サウナで絵を描くことの楽しさを教えていただきました。なので、ピヴェさんにとってサウナとはどのようなものなのかということをやっぱりお聞きしたいです。
P 私にとってサウナは、日々の暮らしや人生において欠かせないもの。日常の一部です。シャワーを浴びたいと思ったら、必ずサウナにも入ります。

Photo by Satsuki Uchiyama
――サウナの絵を描く「サウナシリーズ」は、どのようにして始まったのでしょうか。
P 2020年頃からサウナを訪れたら必ず絵を描くようになり、気づいたらたくさんのサウナの絵ができあがっていました。それらの絵を見ていたら、私自身がとても楽しんでいることに気づいたんです。それでこの活動は続けようと思いました。
このプロジェクトを進めていくうちに、次第に特別なサウナにも興味を持つようになりました。というのも、フィンランド人にとってサウナに入るということは特別なことではなくて、自宅にあるサウナに入ることを意味します。でもサウナの絵を描き出してからは、さまざまな種類のサウナがあることに気づきました。以来、フィンランド中のサウナを巡り、これまで400ヵ所以上のサウナを訪れました。
――日本では、2023年にサウナの絵を集めた、ピヴェさんのアートブック『アートで楽しむ サウナぎつねのフィンランド巡り』(アルソス)が出版されました。フィンランドが好きな人たちはもちろん、日本でのサウナ人気の高まりもあって、大変注目を集めました。サウナの本を出版しようというアイディアは、最初からあったのでしょうか。


左ページに描かれている「ラハテーン・サウナ」は、私たちkukkameriも訪れたことがあり、思い出深い場所。『とっておきのフィンランド』でも紹介している。いつか行ってみたい憧れのサウナはもちろん、知っているサウナを見つけるのも楽しい。
P 出版というのは後から生まれたアイディアで、まずは展覧会ですね。私が絵を描くのはいつも、展覧会で皆さんにお見せするためなので。作品を額縁に入れて、壁にかけて、展覧会を開催する。お客さんは原画を見て、気に入ったら購入することができる。それが私の仕事なのです。
ただ過去にも本を出版したことはあって、こちらの『ATLANTIN VIEMÄÄ』も、もともと本に載せることを前提として描いたものではありませんでした。ここに描かれているのは、ドキュメンタリーのようなもので、私が実際に海に出て体験したこと、目にした景色です。これらの絵を描き終えたとき、「これは本にできる!」と気づき、ストーリーを添えて本に仕立てました。『アートで楽しむ サウナぎつねのフィンランド巡り』も同じようなプロセスで作っています。


――『アートで楽しむ サウナぎつねのフィンランド巡り』は、美しいアート作品を通して、フィンランドにあるさまざまなタイプのサウナを知ることができる貴重な本。読んでいると、まるで自分も一緒にサウナに入っているような感覚になって、心穏やかになります。
そして、この本がとてもユニークなのは、サウナに入っているのが、きつねのキャラクターであること。ピヴェさんにとって、きつねとはどのような存在なのでしょうか。
P 私はこのシンプルなきつねのキャラクターが大好きです。人間と違って、きつねだと年齢や性別が気にならず、誰でも共感しやすい。また、きつねのオレンジの色も温かみがあって、心地よいと感じます。フィンランドではきつねはとても身近な存在。実際、私にとってきつねは、森を歩けばよく出会う動物なんです。
――アーティストとしてだけでなく、一人の女性としてもピヴェさんという人にとても興味があります。いつも笑顔で、やりたいことに真っ直ぐでエネルギッシュ。心と体の健康を保つための秘訣などはありますか?
P 面白い質問ですね! 確かに日々やることはたくさんあって、つい働き過ぎてしまい、私もストレスが溜まってしまうことはあります。そういうとき私は、今週はやらなければいけないことがたくさんあったとしても、翌週はセーリングに出るようにしています。ひとたびセーリングに出たら、そこには自然しかありません。タスクでいっぱいだった頭の中もすっきりとシンプルになり、再び取り組むことができるようになるのです。
私にとって人生で最も大切なものは「愛」です。
それが最優先事項。何が最も大切なのか。
それがわかれば、自ずと生きることがもっと楽になると思います。
ほかのことは取るに足らないことだと気づくはずです。
P あとはサウナも大切ですね。なぜならリラックスできる場所だから。疲れたとき、もう何もしたくないとき、私はいつもサウナに行きます。あとは太陽の光も大事ですね。
――私がフィンランドの人たちの考え方の中で特に好きなのは、「輝く太陽があって、愛する家族と一緒にごはんが食べられる。それだけで十分幸せ」というもの。ピヴェさんもまさにそういう考えですよね。
P ええ、本当に! 私たちフィンランド人にとって大きいのは、夏と冬があまりにも違いすぎること。冬はあまりにもひどい(笑)。天候が悪く、太陽が出る時間が短くて、気持ちも塞ぎがちです。だからこそ、夏になると私たちはクレイジーになります(笑)。太陽の光をたっぷり浴びて、白樺など、すべての生き物から生命力を感じることができます。夏を全力で楽しまないと!という気持ちになるのです。
フィンランドの人たちにとってどれほど夏が特別か、そしてサウナが欠かせないものか、教えてくれたピヴェさん。夏の間、フィンランドに訪れる機会があったら、ぜひサウヴォにあるギャラリーを訪れて。ピヴェさんの本『アートで楽しむ サウナぎつねのフィンランド巡り』を持って、フィンランドのサウナ巡りも素敵です。すぐには無理でも”いつかの夢”としてでもぜひ!

Pive Toivonen
ピヴェ・トイヴォネン/1976年フィンランド・サウヴォ生まれ。ヴィジュアルアーティスト。2002年にヘルシンキ芸術大学(現・アアルト大学)を卒業。絵画制作を中心に、書籍のイラストレーションやパブリックアート、本の執筆など、多岐にわたって活躍している。2025年2月〜3月にかけて、ヘルシンキのMuji Small Galleryにて、サウナをテーマにした個展を開催。日本での著書に『アートで楽しむ サウナぎつねのフィンランド巡り』(アルソス)がある。ヘルシンキを拠点に活動していたが、最近、トゥルクにほど近い、群島エリアの島「ルイッサロ」に引っ越したばかり。https://pivetoivonen.fi/
2024年6月17日 フィンランド・ヘルシンキのヨットハーバーにて
企画・取材/kukkameri
執筆/新谷麻佐子(kukkameri)
協力/スカンジナビア・ニッポン ササカワ財団