M 日本で初めての個展を開催したのは、2018年。スパイラル(東京・青山のアートスペース)で開催しました。ドワネル(東京・外苑前のギャラリーショップ)では、2020年から個展をするようになり、今回で4回目になります。今回のテーマは「Infinite Bloom」。私は、よく花をモチーフに作品を制作していますが、花の惹かれるところは、刹那的な美しさとともに、風に煽られても美しい力強さ。花はいつか枯れるもの。その美しい姿を永遠に残したいという思いがあり、作品にしています。
M 近くで見たときに驚きがあることを大切にしています。ディテールにこだわるのは、結果的に全体の見た目が大きく変わってくると思うから。ディテールが詰まっているところに価値が出る、ダイヤモンドのように輝くものになると信じています。私は元々ジュエリーデザイナーとしてキャリアをスタートさせたので、ディテールにこだわるのはそういった背景もあるかもしれません。
M 花を見るのは好きですが、野生の花が一番美しいと感じています。パートナーは花を育てるのが得意で、うちには彼の友人からもらった蘭の花があり、上手に育てていますね。比較的サボテンは育てやすいと思いますが、実はそのサボテンも1つ、私はダメにしてしまいました。ですから、私はセラミックで花のガーデンを育てていかなければならないのです。
――個展では、フルーツや花瓶の陶作品も展示されていました。それらについてもお聞かせください。
M 花の作品と同じで、生きものの一瞬を切り取り、セラミックで表現したいと思っています。実は私はフルーツのアレルギーがあって、普段の生活では関わりをもてないんです。ある意味、禁断の果実のよう。だからこそ、美しいフルーツのきらめきをセラミックに閉じ込めたいのです。
M 私はありがたいことに、とてもいい子ども時代を過ごしました。両親ときょうだい2人の家族5人で、夏の間は、両親の故郷であるフィンランド北東部、ロシアの国境近くの大自然の中で過ごしました。一番近いお店が50kmも離れているような、本当に自然以外に何もないような場所。湖で釣りをしたり、泳いだり、森でベリー摘みやハイキングをしたりして、自然に対する親近感やリスペクトが養われました。そうそう、よく叔母にはこう言われたものです。「あなたたちは、口の中に蚊が入った状態で生まれたのよ」って(笑)。フィンランド北部は、あまりにも蚊が多いのです。まるで蚊の音楽が聞こえてくるかのよう。
M 私は大学でテキスタイルを学んでいて、2014年に卒業。2016年にリュイユのコンペティションに参加し、優勝しました。そのときすでにセラミックの作品も作り始めていて、リュイユの羊毛を見ていたら、セラミックでリュイユを作ることを思いついたのです。テキスタイルは、太陽の光を浴びればダメージを受けるし、破けることもあり、損傷しやすいもの。一方のセラミックは硬くて頑丈でありながら、柔らかく見せることもできます。一度作れば、その美しさが永遠に保てるというのに惹かれました。
M とても自然な流れでした。子どもの頃からクラフトが好きでしたし、クリエイティブな道へ進むこと以外考えたこともなかったです。あとは、母が織物の経験があったのも影響しています。私の周りにはいつもいろいろな素材がありました。小さい頃は、ジャガイモでスタンプを作ったりして遊んでいましました。
――マリアンネさんにとって「リュイユ」とは?
M 私たちにとって遺産だと思います。フィンランドに限らず、スカンジナビアの国々にとって。かつては実用的なものでしたが、現代では、壁に飾るなどよりアート的な存在になっています。1960年代がリュイユの黄金期ですが、近年、リュイユに注目するアーティストが増え、再びリュイユの流行がやってきているように感じます。その中でも、セラミックで作る私のリュイユは、モダンなもの。さらに新しい形に進化させたいと思っています。
リュイユ作品「Juhlista juopuneet」(2021年)。3点のシリーズ作品「Juhlien jälkeen(パーティの後)」の1つ。Photo by Anna Autio
M 一番アーティスティックな部分、パーツを縫い合わせていく工程です。私がメカニカルパートと呼んでいる、パーツを作る工程は、アシスタントにも作ってもらっています。そうしなければ、自分が作りたいというイメージに手が追いつきません。
M 正直、アシスタントはもっとほしいくらいで、縫うパートも一部お願いしたいと思うのですが、そうすると「変化の自由」が失われてしまいます。思いつくままに変えていきたいので、自由なところは、手放さず持っていたいのです。大事なのは、常にパーツの準備ができているということ。パーツがなくなる心配がなければ、制作の流れはスムーズになります。
M 実際のところ、スケッチはあまりしません。小さなパーツさえそろっていれば、スケッチなどしなくてもかまわないのです。例えば、スカルプチャーを作る場合、まず金網のフレームを用意します。それから、いろいろな形と色のパーツを見れば、パーツの方が訴えてくるのです。自分はどこにいきたいと。先ほどの、常に自由でありたいという意味では、途中で色を変えることもありますし、パーツの形を変えることもあります。これまでにない新しいパターンで作ることを大事にしています。