Finnish Artist

Marianne Huotari

第1回<後編> マリアンネ・フオタリ 

セラミックアーティスト、テキスタイルデザイナー

力強く、自分の足でしっかりと立ち、

アーティストとして進化し続ける

セラミックアーティストとして国内外で活躍するマリアンネ・フオタリさん。2019年には、フィンランドを代表する製陶所「Arabia(アラビア)」*のアート・デパートメント・ソサエティのゲストアーティストに選ばれ、2021より正式メンバーになりました。先輩アーティストから刺激を受ける日々、さらには日本のブランドやテキスタイルデザインの仕事についてもお聞きしました。

* Arabia(アラビア):スウェーデンのロールストランド製陶所の子会社として、1873年、ヘルシンキのアラビア地区に創業。プロダクトを生産する他、1932年にアート・デパートメントを設立し、セラミックアーティストたちに、創作の自由と制作の場を与え、支援している。「パラティッシ」のデザイナーとしても知られるビルゲル・カイピアイネンや、2019年〜2020年に日本で展覧会が開催され話題となったルート・ブリュックも、アート・デパートメントの出身者である。2003年からアラビア・アート・デパートメント・ソサエティは独立した組織となり、2023年に20周年を迎えた。

――アラビア・アート・デパートメント・ソサエティの一員になったことについて、どのように感じていらっしゃいますか。

M  それはもう宝くじに当たったような気分です。きっかけは、アート・デパートメントが募集するゲストアーティストに応募したことでした。ゲストアーティストに選ばれると、1年間、アラビアのゲストルームで制作できます。そこでは大きな窯や特殊な釉薬など、特別な設備や材料を使うことができるのです。私は、2019年、そのゲストアーティストに選ばれました。

フィンランドにおけるセラミックアーティストの成功者たちは、ほとんどの人がこのアート・デパートメント出身。それくらい歴史がある組織の一員になれたことは、大変光栄です。私はもともとモチベーションが高い方ですが、フィンランドのセラミックアートをリードするアーティストたちの働く姿を間近で見ることができ、モチベーションはさらに高まり、大きな刺激になっています。

アラビア・アート・デパートメント・ソサエティの一員となり、
アトリエを手に入れて初めて、私はセラミックアーティストだと
胸を張って言えるようになりました。

M  アラビア・アート・デパートメント・ソサエティは、現在12人が在籍しています。私たちは一緒にグループ展を開催することもあります。2023年、アラビアは150周年を迎えました。その記念に、アーティスト1人につき、15個のジャーの型を使って作品を制作しました。作品は、アラビアストアで販売されています。

アラビア・アート・デパートメント・ソサエティのメンバー。Photo by Chikako Harada
アラビア150周年記念のマリアンネさんの作品「Juhlat / Cocktail」(2023)。Photo by Anna Autio
なお、マリアンネさんは、アラビア・アート・デパートメント・ソサエティの独立20周年を記念した展覧会
Atelier Life」にも、他の9人のアーティストと共に参加している。
建築家のエリエル・サーリネンが仲間と建てた「Hvitträsk(ヴィトゥレスク)」にて、
2023年6月9日から9月30日まで開催中。

――2020年までアート・デパートメントのメンバーだった、石本藤雄さんとも交流があるそうですね。

M  石本さんからは本当にいろいろなことを学びました。

石本さんのすごいところは、
作るもの全てがすごく考え抜かれているところ。
その中でも、自分の一部を作品に入れるということを学びました。
とても重要なことだと思っています。

M  石本さんがプロデュースする愛媛のギャラリー「Mustakivi(ムスタキビ)」で、2019年に個展「Orangeria-the Ceramic Garden of Infinite Summer(永遠の夏)」を開催しました。柑橘系の植物を育てる温室「オランジェリア」を訪れたのをきっかけに制作したアートピースを展示したのですが、中でも、松山の風景であるみかん畑をモチーフにした作品「Mandariinitarha(みかん畑)」は、幅2メートル、高さが私の身長くらいあり、これまで制作した中で、今のところ一番大きい作品になります。この作品は、松山の後、美濃のコンペティションに出品し、特別賞を受賞。世界を周り、最終的にはニューヨークのコレクターの方に購入していただきました。

松山のみかん畑をモチーフにした作品「Mandariinitarha」(2019年)Photo by Jefunne Gimpel

――そもそもマリアンネさんが日本に興味を持ったきっかけは?

M  なぜかずっと日本に興味がありました。それに昔からスタジオに来る人たちに「あなたの作品は日本っぽいね」と言われることが多かったのです。私自身は、日本っぽいものを作ろうなんて思ったことはなく、作りたいものを作った結果、何か日本に通じるものがある。実際に日本に来てみると、皆さんとても親切でいい方ばかりですし、文化も興味深いです。「もったいない」という考え方や、小さな器に料理を美しく盛りつける文化にも惹かれますし、日本に来るといつも家に帰ってきたと感じます。

――日本のブランド「WAFIN(ワフィン)」*にデザインを提供していますね。どのような思いで作られたのでしょうか。

*WAFIN:「和ろうそくで感じる北欧の幸せな暮らし」をテーマに、マリアンネさんをはじめとする、フィンランドのアーティストがデザインしたキャンドルホルダーや、日本人アーティストの和ろうそく、白樺アロマキャンドルなどをプロデュースしている。

マリアンネさんがデザインしたキャンドルホルダー「Kanto(切り株)」。
大小2つの切り株は真鍮製で、小さい方は裏返すと花の形をしたオブジェになる。
白樺の和ろうそくを手がけたのは、日本人アーティスト櫨佳佑さん。

M フィンランドのアーティストと一緒にプロダクトを作り、フィンランドの一部を日本に持っていくというWAFINのアイディアは、最初に話を聞いたとき、とてもいいアプローチだと思いました。

私がデザインした「カント」は、フィンランド語で「切り株」という意味。モチーフが森から来ているというのがまず重要なポイントです。さらに「カント」には、ルーツ(根っこ)のイメージもあります。つまり自分がどこから来たのかという、アイデンティティを表します。自分の足でしっかり立つという、力強さを表現しています。

カントは、上から見ると花の形をしています。
うまくいかないときでも、
その中には美しいものがあるよというメッセージ。
諦めないで、という思いを込めています。

Photo by Yurie Ninomiya

M  WAFINの二人は、もともと友人です。二人は私にとって日本でのカント(根っこ)。WAFINのプロジェクトは、チャレンジの要素が強いですが、私としては、可能性しか感じません。正直、当初考えていたものよりも、大きく成長していると思いますし、今後まだまだ進化していくでしょう。その過程で、私が貢献できることがあれば、喜んで参加したいです。

カントに込めた思いについて語るマリアンネさん。Photo by Satsuki Uchiyama

――テキスタイルデザインの仕事も続けていますね。最近のお仕事についてお聞かせください。

M  2018年から、フィンランドのテキスタイルデザインブランド「Finarte(フィンアルテ)」のアートディレクターを務めています。ブランド全体のディレクションもしますし、ラグやクッションカバーなど、商品のデザインも手がけています。

M  最近では、フィンランド国立博物館のために、「VÄRE」というパターンをデザインしました。ヘルシンキにある国立博物館の建物からインスピレーションを得て、描いています。こちらのデザインは、ノートやカード、ラッピングペーパーなど、ステーショナリーに使われています。

国立博物館のためのパターン「VÄRE」シリーズ。撮影も国立博物館で行われた。Photo by Finarte/Cristian Jakowleff

M 「VÄRE」のパターンは、Finarteのクッションやラグにも使われています。

同じくフィンランドのテキスタイルブランド「ラプアン カンクリ」とも仕事をしました。2023年の秋に発売予定です。日本でも販売されると聞いていますので、日本の皆さんにも手に取っていただけるとうれしいです。

――今後の活動についてもお聞かせください。挑戦したいことはありますか。

M  正直なところ、3年前に思い描いていた夢が、予定より早いペースで実現しています。大きなターニングポイントになったのは、ニューヨークの大きなギャラリーと契約を結んだこと。ちゃんと契約を結んで、作品を売ることができているということは、アーティストとしてとても大事なことです。他にミラノのギャラリーとも契約を結び、ロンドンのギャラリーとは、新しい取り組みをスタートさせました。

私が求めるのは安定です。
作品を売る場所が増えれば、
安心して作品を作ることができます。
そして、アーティストとして進化し続けることが、
私にとって一番大切なことなのです。

M  ここ数年で、アーティストとして確実に成長し続けていると感じています。それと同時に、限界を超えたいとも。どのくらい大きな作品を作ることができるのか、自分でも見届けたい。自分自身を開拓していきたいです。

フィンランド国立芸術委員会からの依頼で制作した作品「jo niin minä kukoistan(and so I flourish)」(2021年)。Photo by Kirsi Halkola
Photo by Satsuki Uchiyama

Marianne Huotari

マリアンネ・フオタリ/1986年フィンランド・ミッケリ(Mikkeli)生まれ。ヘルシンキを拠点に、セラミックアーティストとして、国内外で個展を開催している。2019年、アラビア・アート・デパートメント・ソサエティに、Visiting Artistとして招待され、2020年からメンバー候補として所属。翌年、正式なメンバーとなり、アラビアのアトリエで制作を続けている。国内外の受賞も多く、「ロエベ クラフト プライズ2022」では、ファイナリストに選ばれた。また、テキスタイルデザイナーとして、フィンランドのテキスタイルブランド「Finarte」のアートディレクターを務める他、フィンランド国立博物館やテキスタイルブランド「ラプアン カンクリ」、さらには「SPIRAL」「WAFIN」といった日本の企業やブランドへデザインを提供している。mariannehuotari.fi/

2023年4月30日 東京・荻窪kielotieにて

企画・取材/kukkameri

執筆/新谷麻佐子(kukkameri)

取材協力/WAFIN、kielotie

毎回アーティストインタビューの後に、kukkameriの二人がそれぞれ感じたことを言葉と絵で綴る「kukkameri通信」をお届けします。kukkameri通信 #01 Marianne Huotari

Marianne Huotari マリアンネ・フオタリの記事<前編>

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