Illustration by Asako Aratani
第2回 ヴィルピ・スータリさん
インタビューを終えて、kukkameriの二人がそれぞれ感じたことを言葉と絵で表現します。
“監督の子どもの頃からの宝物
大好きなアアルト建築・デザインを
愛おしくなでるように映し出す”
新谷麻佐子
映画「アアルト」の試写を見てから、2ヶ月以上、時間が経っているのですが、今でも強く心に残っているのが、ヴィルピ監督のアアルトへの愛。アアルト建築はもちろん、手すり、照明、光など、アアルトがディテールまでこだわり抜いたデザインを、愛おしくなでるような優しい映像が印象的でした。
インタビュー中に、ヴィルピ監督が、子ども時代のロヴァニエミ図書館での思い出や、子どもを入れて撮影をしたいと思ったシーンについて語るのを聞いて、映像と監督の思いが繋がりました。
もう1つ、映画とインタビューを通して印象に残ったのは、やっぱりアイノとエリッサの存在。特に、この映画では、アルヴァとアイノの往復書簡を取り上げることで、これまでフィランドでもあまり知られていなかったアイノの姿が浮かび上がり、観ているこちらも同じ女性として(アイノのような才能を持ち合わせていないにしても!)思いを重ねたり、言葉の裏に見える本心など、いろいろ想像したりしてしまいます。
ヴィルピ監督は、手紙から読み取れる思いなどを語ったのち、次のように言ったのです。「でも実際のところ、夫婦のことは、本人たちにしかわからないのよね」と。手紙はあくまでも手紙で、やっぱり夫婦にしかわからない二人の関係性がある。その言葉からも、ヴィルピ監督のアルヴァとアイノへの敬意と愛を感じました。
そして、個人的には、なぜかすごくエリッサの生きる姿にも感情移入をしました。と言っても、彼女と同じ境遇、共通点などまったくないのですがーー。アルヴァはもちろん、スタッフなど、みんなに愛されたアイノの影を常に感じていたであろうエリッサ。アルヴァの好みの女性になろうと、髪型や洋服まで変えてしまうなんて! 自分だったら、そんなこと絶対できない! それでも才能あふれるエリッサが、大好きな人の前で見せるチャーミングな笑顔見ると、監督が言う通り、美しい人生を歩んだんだろうな、と納得するのでした。
“人を包み、育むアアルトの空間”
内山さつき
ヴィルピ・スータリ監督が子どもの午後を過ごしたロヴァニエミの市立図書館は、私たちkukkameriも取材に行ったことがあります。訪れたのは12月の初め、北極圏すぐ近くのロヴァニエミの街では、午後2時過ぎにはもう日が沈み、空気が急速に冷えていきます。
西の空に残るほの暗い夕焼けを追うように青い闇が迫ってきて、一日がもう終わってしまうかのようなさみしさと、やがてやってくる厳しい寒さを思い、街の中心から少し外れた場所にある図書館へと向かう道では共に言葉少なでした。
でも、道の先に灯る図書館の明かりと美しい佇まいが目に入ると、それまでの疲れも吹き飛んでしまいました。
美しい曲線を描くドアノブに手を触れたときの胸の高鳴り、真鍮のランプの落ち着いた光、図書館の中では、ロヴァニエミの人たちが静かに、そして思い思いに午後のひとときを過ごしていて、私は市民ではないけれど、この空間にあたたかく受け止めてもらったような気がしたのを覚えています。
今回インタビューで、この素敵な空間で幸福な子ども時代を過ごした監督のエピソードをお聞きして、この映画「アアルト」の出発点に触れ、すべての人に開かれたアアルトの美しい空間が、また新しい才能を慈しむように育んでいたことに感銘を受けました。
丹念にリサーチし、一見気づかれないようなところにも粋な遊び心を忍ばせ、アルヴァとアイノが大切にした「人間らしさ」という視点から、改めて彼らの生き方を描き出したこの作品に、心から敬意を表したいと思います。